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◆ひとくち紹介
 不知火カヤによるクーデターの収束後、連邦生徒会は浮き彫りになった防衛室の汚職体質の改善のため、膨れ上がった権限を防衛室から切り離す「ダイエット」を実行。
 交通室の外局として、防衛室の権限を一部委譲された形で「輸送防衛委員会」が——
——連邦生徒会組織規則の第三条に規定される、通称「三条委員会」が発足した。
 組織の長は、忍谷珠(にのやじゅ)ユイカ委員長——その正体は、犯罪コンサルタントのニヤニヤ教授。
 教授は考える。
 太陽なき太陽系に誕生した、三条委員会という準惑星。
 その主人となればこそ、自らの願いを成就させることができるだろうと。
◆処暑の候——不知火カヤのクーデターから1週間後 オデュッセイア海洋高等学校領海の孤島
「忍谷珠ユイカ……あなたは、今回の組織改正によって、新たな三条委員会の委員長に選ばれました。ええ、突然のことで困惑していることでしょう。わかりますとも。あなたは……学者(Dr.)です。海洋法……あまりにも幅広い概念ですが、あなたは特に学園間条約に精通していて、さらに実際の海上輸送についての幅広い知見もあります。もっとも、オデュッセイアの生徒であれば、全員基礎は習うのでしょうけど……。
ほむ。話を戻しましょうか。
私は、そんなあなたにご挨拶と……ちょっとした新生活のご案内に参りました。
ええ、ええ、新生活です。ああ、もう、そんなに泣かないでください。いくら泣いても、誰も助けに来てはくれませんよ。それに、暴れてしまったら、あなたがお口で咥えている拳銃が……私の指が引き金を引いてしまうかもしれません。
……少しは落ち着きましたか? ええ、何も命まで取ることは無いのです。あなたは委員長に選ばれましたが、それは何もあなたが立候補したわけでもなく、もとよりあなたには権力に対する欲求も無いのですから。
そんな可哀想な人の命を奪うほど、私は冷酷ではありません。
ですので、教授(Prof.)として私はあなたに魅力的な提案を……。
ほむ、察しがいいですね。
そうです。あなたの新しい名前、住所、学籍、家族、恋人……全て用意してあります。
あなたは明日には、まったくの別人に生まれ変わるのです。
どうやって? ああ、お金ですよ。お金を渡しているのですよ。
私はあなたという存在を有する社会組織の、毛細血管の先までを掌握しています。あなたの恋人さえも、買い取った……つもりだったのですが、彼女だけはあなたを最期まで……愛していた。
直接、お話を聞きましたよ。幼馴染だったのですよね。そして、オデュッセイアの荒波をふたりで乗り越えてきた。しかし優秀な頭脳を持つあなたにだんだんとついていくことができなくなり、彼女も苦労していたようです。不和の芽もあった。
ですが、彼女は右目を失っても、左手の爪を支払っても……もっと根源的な恐怖を3日3晩与えても……最期の最期まで、あなたに恨み言ひとつ言いませんでした……。
ああ、気になりますか? 彼女の遺体は、今も海上輸送コンテナのどこかに。どうやってもあなたの居場所を吐かないので、3日ほど、水だけを与えて真っ暗なコンテナに閉じ込めてみたのです。海は荒れていました。くぐもった轟音と、神経を蝕む暗闇。孤独と寒気。
今際の際で発した聞くに耐えないあなたへの罵詈雑言の数々には思わず笑って——ああ、ごめんなさい。どうか泣かないで」
少女の頬を伝う涙を、小さな教授は優しく左手の親指で拭ってやる。右手は拳銃を彼女の口に差し込みながら。
「ですが、物事は建設的に、前向きに捉えましょう。あなたを縛り付ける愛の鎖はもう腐り落ちたのです。
ですから、そう。あなたは、名もなき自治区……ああ、この場合は単に比喩ですよ。キヴォトスには数千の学園がありますが、やれみなさま口を開けばトリニティ、ゲヘナ、ミレニアム、ワイルドハントと……あなたにはこの中のどれでもない、北方にある自治区にお引越しをしてもらいます。
……「箱蘭」という地名に聞き覚えはありますか?
ええ、そうです。
今のオデュッセイアができる時に吸収合併した、小さな水産学校が持っていた自治区です。
学校そのものは廃校となって今は小さな港町ですが、不便はしないと思いますよ。
あなたはそこで、残り少ない学生生活を静かに過ごす……。
そして私は、あなたの代わりとなって輸送防衛委員会の委員長を勤めます。
連邦生徒会長はもとより、不知火カヤすらいない以上、連邦生徒会の掌握は容易い。
ええ、三条委員会の委員長など、踏み台にすぎません。
私の終局的犯罪(りそう)への、小さな一歩に過ぎないのです。
……ほむ、おしゃべりをしすぎましたね。
◆◆〇〇、と言いなさい。
あなたの新しい名前です。
さあ——」
そう言ってニヤニヤ教授は忍谷珠ユイカの口から拳銃を引き抜く。銀の口枷の先端と彼女の唇の間に透明な吊り橋が架かる。教授はどこか恍惚とした表情で、てらてらと濡れそぼった銃口に口付けをする。
ユイカは、虚な目でそれを眺めながら、促されるままに口を開く。与えられた新たな名前。新たな人生の記号を。
「サトウ アキ」
教授はその薄く艶のある唇を開き、悩ましげにため息をつく。そして告げる。
「契約成立、ですね。では、あなたの過去はこれから有効活用させていただきます。サトウアキさん」
アキは根腐れした植物のようにだらりとその身の力を抜いた。さらさらとした長い金髪が夜の月を反射し、新緑の瞳はただ虚空を見る。
ユイカは彼女のその様子を見て、ニヤニヤと満足げな笑みを浮かべる。
「ああ、楽しみですね」
ユイカは宇宙(そら)を見る。
一条の流れ星。吉兆か、それとも……。
「ほむ……」
翌日、ユイカは正式に委員長へ任命された。
任命式は、つつがなく執り行われた。
各章の簡単な振り返り・序文~第一部
序文
序文は「連邦生徒会 生徒会組織規則」から始めました。
連邦生徒会 生徒会組織規則
第三条 連邦生徒会の行政委員会組織の設置は、この規則でこれを定めるものとする。
2 行政委員会の組織は、室、委員会及び局とする。
3 室は、各室長の掌理する行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び局は、室に、その外局として置かれるものとする。
4 第3項により置かれる委員会は、室長により指名された委員長がこれを統括し、委員長は各委員を指名することができる。また、委員会はその下に事務局を置くことができる。
5 委員会は、その業務の遂行にあたり、独立して予算案の編成及び人事の決定を行うことができる。ただし、予算案は室長の承認を要し、人事は連邦生徒会規則に従うものとする。
6 本規則により設置される委員会は、連邦生徒会行政委員会と区別されるべく、三条委員会と呼称する。
実は本作の執筆で一番最初に取り掛かったのがこの規則です。基本的には「国家行政組織法」の第三条をキヴォトスの実情に読み替えたものを採用しています。
ただ、6項のみ新たに追加しました。
 本誌でも傍線を引いていますので、基本的には第6項のみ読んでいただければOKです。
(何なら、規則を読む必要はあまりないのですが……)
また、「輸送防衛委員会へのインタビュー」についても、個人的には良い試行だったと考えています。
 本作はその性質上、どうしても委員たちの影が薄くなります。
また、執筆においては、物語を進めながら委員会の性質をなんとなく理解してもらうというサブミッションも抱えていました。
それを解決するため、月刊キヴォトスから抜粋した体でインタビューの掲載を行いました。
忍谷珠ユイカについて
実は、本作は序文を読むと忍谷珠ユイカの正体がわかるようになっています。
ほむほむ教授……おっと、ニヤニヤ教授ですね。
私の書く二次創作では、普段光の当たらないモブちゃんたちに焦点をあてることが多いです。
ただ、ブルーアーカイブには最強のヴィランが既に存在している!
といいつつ……教授は結構有名人だと思うので、偽装のためにオデュッセイアの生徒の過去を奪わせ、委員長の座につかせました。
したがって、インタビューにほむほむプロフェッサーの口癖を差し込むことで、読者にだけ真実を明かしつつ進めていくという構成をとっています。ミステリーではなく、サスペンスですね。
もっとも、それが成功しているのかは分かりませんが。
第一部 彗星
 小銭入れを覗くと、カビが生えていた。五百円、百円、十円、一円。全て白い菌糸にまみれ、恐る恐る一枚つまみ上げると、粘ついた透明な糸が蛍光灯の光を反射した。そんな夢。
『七神リン行政官、あなたを公文書毀棄および職権濫用の疑いで緊急逮捕します』
――あのひとの姿。フラッシュバック。
『……お金を渡しているのですよ?』
目に浮かぶ。カビの生えた金すら道具として使い、まるでそのことを誇るかのような、あの女――不知火カヤ。
『あなたは、弱い。弱い者は、ここに置いておけない。それだけの理由です。わかりましたか? わかったのなら、私の眼前から、消えなさい』
――そして、アイツ。あの女の忠実な部下で、私の先輩、だったひと。防衛次長。あなたは、裏切り者だ。私をその引力で引きつけておいて、手放した。全て金のために。
長財布しか持っていないので、ワイも小銭入れが欲しいです。最近の財布ってコンパクトがトレンドですよね??
さて、第一部の書き出しはこんな感じです。時系列はカルバノグ二章から5週間後に設定しています。
 実は本作、ワイのpixiv短編「偽・太陽神」とゆるくつながりがあります。
といっても、完全な前後編や過去編といった関係にはありません。
具体的には「偽・太陽神」のラストシーンが、「三条委員会」の世界線だと無かったことになっています。
以下「偽・太陽神」のネタバレ
【該当シーン】
 冷たい金属の輪が私の手首を締めた時、私は真の意味で解放されたような、そんな心地がした……本当だよ
「——だからね。もう私は、辛くなんてないんだよ」
 矯正局の面会室で、私はこの子に全てを話した。最初から、最後まで、私はこの子に語った。
「そんな……私、私は……」
 この子は優しい子だ。赤い目に涙を溜めて、私の話を最後まで聞いてくれた。
「やっぱり——強い子だね」
 その姿を見て、私の口は勝手に動いた。
 彼女は、ゆるゆると首を横に振った。
最初から続編(?)を書くつもりは無かったのですが、個人的にパワハラを受けてる子が好きなので……
次長のことを考えていたら、三条委員会の構想が浮かび上がってきました。
執務室の様子などについて
モチーフは霞ヶ関です。ワイの職場ですね。
 ただ、ブルアカ世界を考えると、現代日本ほど複雑怪奇な官僚機構は存在しないと思ったので、そこら辺の調整はしています。主に規模感ですね。
 ただ、シャーレの先生の仕事を見ていると、連邦生徒会もかなり手続き重視できっちりやってるなぁ、などと考察できるので、そこら辺の官僚感はきっちり現実のモチーフを濃く反映させています。
作中で輸送防衛委員会が民間ビル「ハーバーリンク・プラザ」を借りているのは、モデルのひとつである「原子力規制委員会」が同様の措置をとっている(はず)だからですね。
また、物語上も連邦生徒会から地理的に離していた方が都合がいいというのもあります。
 ちなみに、霞ヶ関の合同庁舎には食堂があって、一般の方も利用することができます。
がっつり食べたい人は、総務省の地下食堂のカツカレーがおすすめです。
 多少高くてもおいしいものを食べたいときは、農水省の食堂がおすすめです。
貧乏パスタについて
 私はぺたぺたと素足で戻り、戸棚からパスタを取り出す。百円均一で購入した一リットルの水差しに、私はパスタを保管している。ちょうど蓋をずらし、本来であれば水が出てくる開口部からパスタを取り出すと一人分になるのだ。
 私はいつものようにパスタを鍋に入れた。割り箸で彼らをなだめ、ポコポコと湧き上がる湯の中に押し込んでいく。気持ちばかりの塩を入れれば、それで終わりだ。
 茹で上がるまでおよそ八分。私は小さな食器棚から青いお皿を取り出し、中心に塩を適量。戸棚から乾燥バジルの入ったボトルを取り、青い大地に緑を振り撒いていく。冷蔵庫を開ける。にんにくのチューブを適量、中華スープの素を少し、そしてマヨネーズ、いくつかのスモーキーな香辛料、ピザ用のモッツァレラチーズ、先週切らしたオリーブオイルの代わりに、サラダ油。全てを入れてぐるぐると均一に混ぜる。
 残り四分。私は赤いスツールに座って、ぼうっとただパスタが茹で上がる音を聞く。
 そろそろかな。割り箸で一本パスタを持ち上げて、かじってみる。少し芯の残る感じ。私は火を止めて、割り箸でパスタをすくい上げてお皿に入れる。
「いただきます」
 食卓テーブルなんかはない。キッチンにそのまま皿を置いて、スツールに腰掛けて食べる。パスタを箸でひっくり返すように混ぜた瞬間、湯気と共に、ジャンクな香りが漂った。
◆作ったのがこちら(PCデスクの上ですみません)

味はそこそこです。学生の一人暮らしのごはんと考えてください。(私は毎日食べていますが……)
主人公であるスーの人格を考える上で、食事への向き合い方については明示しておきたいと考えていました。
……こうして食事をしていると、昔の自分を思い出す。あの頃は、とにかくお腹が減っていた。美味しいものといえば、たまにもらえた百円玉で買いに行く、菓子パンたちだった。
 それに比べて、今の私は随分と「食」に対しての興味がなくなったなと思う。今の私にとって、キラキラした食事というのはつまり、人間関係の維持に係るコストのようなものだ。
最小限に留めてもいいし、コストをかけて維持したい関係性があれば、かけるべきだろう。
もちろんただ生きていくだけなら、そこまでの手間もお金もかからない。
◆なんとなく意図しているポイント
・生存重視の思考
 →第二部で明かされる、スーの生い立ちを意識して執筆しています。スーにとって、食事は生存におけるコストなんですね。
・メイとの関係 = かけるべきコスト
 →スーって割とメイに対しては一直線の恋愛感情を向けています。
 それと同時に、「お金」そのものには執着をしていないので、メイとは結構ちゃんとしたレストランとかに行ったりするんですね。
D. U. シラトリ区 ラミニタウン ホテル Eve
ラミニタウンは歓楽街なので、当然ホテルもあるだろうなと思ってセッティングしました。
 モブちゃん同士の百合って個人的には性癖です。
 彼女は私の頬を舌先で触れてから、猫のように下がっていき、首元に口を寄せる。そして、
「どこにもいかないでね」
と言って、私の首筋に噛みついた。ぷつんという感覚。小さな噛み跡が起点となり伝っていく血の感覚。興奮して耳を赤くしたメイの姿。こんなことをされて痛いはずなのに、私は脳内からじゅわっと幸せなものが広がる心地がして、メイを強く抱き寄せた。
「うん……メイも、私を……捨てないで」
 掠れた声だ。メイは何も言わずに私の唇を奪う。
 スーの、「捨てられてしまうこと」への恐怖がどこから来るのか。実は作者である自分もよくわかっていません。
孤独への恐怖は普遍的なものである、と考えることもできます。
また、直近に「防衛次長(先輩)に捨てられた」経験をしていることも、おそらく主要な理由の一つなのだろうと考察できますね。
つまり、私は捨てられたんだ。やっと見つけたあなたという天体(ひと)に、引きつけられて、そして、暗い宇宙に投げ出された。好きだったのに、捨てるなんて――。
防衛次長のパーソナリティー・退場について
原作では、カヤから無茶ぶり(というかパワハラ)を受けている印象の強い彼女ですが、本作ではひたすらに利他的な人物として描いています。
自らの死さえ顧みず、必要であれば自分が誰かにとっての「悪」となることさえ厭いません。
そんなの歪んでいる、と考える人もいると思いますが、おそらく彼女の場合は生まれた時から変わらない、魂の善性ともいえるものがそうさせているのだと思います。
カヤもスーも、そこまで善良な人間ではありません。そういった彼女たちをつなぐ存在として、どこまでも利他的な人間を配置できたのにはある程度の効果があったのではないかなぁと思ったりしています。
ちなみに元々のプロットでは、ここで出番を終わりにしてしまうつもりだったのですが、スーが思ったよりも次長のことを憎んでひどいことを言ってしまっていたので、仲直りエンドに繋げるために生かしました。
序文~第一部のごく簡単な感想
 規則やインタビューから始まり、比較的メリハリのある構成で進んでいくパートだったと思っています。
そして、実はここまででおよそ2万文字。主催の先生への土下座の準備をしていた頃だった気がします。
 スーという主人公の性格を、少し屈折した……いや、ある意味では真っすぐではあるのですが、そんな感じに調整した事が結構上手くいったのではないかなと思ったりしています。
(もっとも、ここら辺は読み手じゃないと分からないと思うので、私からはなんとも、といった感じです。)
さて、だいぶ長くなりましたので、続きはまたいつか投稿します。
さようなら。

	
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